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東京地方裁判所 昭和60年(ワ)3746号 判決 1988年7月27日

原告 東京海上火災保険株式会社

右代表者代表取締役 則武昌和

右訴訟代理人弁護士 田中愼介

久野盈雄

今井壮太

安部隆

被告 東京菱和自動車株式会社破産管財人 松井元一

右訴訟代理人弁護士 辻洋一

田倉榮美

主文

一  別紙預金目録記載の各預金について、原告が預金債権者であることを確認する。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

理由

一  請求原因1、2及び4の事実は当事者間に争いはない。

二  ≪証拠≫によると、東京菱和の破産宣告当時別紙預金目録記載の預金債権(原告主張の持分を除く。)が存在していたこと、この預金債権は、保険料保管専用口座(以下「専用口座」という。)の債権として存するものであることが認められ右認定に反する証拠はない。

三  ところで、この専用口座は、損害保険代理店等の行う募集を取り締り、もつて保険契約者の利益を保証し、併せて保険事業の健全な発達に資することを目的とする募取法に根拠を有するものである。

すなわち、代理店の保険料の保管については、募取法は第一二条において、「損害保険代理店は、所属保険会社のために収受した保険料を保管する場合においては、自己の財産と明確に区分しなければならない。2前項の保険料の保管に関して必要な事項は、命令でこれを定める。」と定め、同法施行規則は、右募取法第一二条二項を受け、規則第五条で「損害保険代理店は、所属保険会社のために保険料を収受したときは、遅滞なく、これを所属保険会社に送金し、又はこれを郵便官署銀行その他預金若しくは貯金の受入をなす機関に預入しなければならない。2前項の預金又は貯金は、所属保険会社の異なる毎に別口座としなければならない。但し、二以上の保険会社の委託を受けている損害保険代理店について大蔵大臣の指定する場合は、この限りでない。3第一項の預金又は貯金は、当該損害保険代理店の有するその他の預金又は貯金と別口座としなければならない。」、同第六条で「前条の預金又は貯金は、左の各号に定める場合の外、これを使用することができない。一所属保険会社に対して送金するため払い戻す場合 二保険契約者に対して保険料を返戻するため払い戻す場合 三損害保険代理店の受けるべき手数料、報酬その他の対価に当てるため払い戻す場合 四当該預金又は貯金の利息を払い戻す場合 五その他所属保険会社の指示による場合」と定められており、右施行規則第五条二項但書につき、昭和二四年一月四日大蔵省告示第四号により「二以上の保険会社の委託を受けている損害保険代理店が各委託保険会社の同意を得て、損害保険代理店の名義をもつて、預金又は貯金する場合」が指定されている。

さらに、募取法施行規則第七条は「損害保険代理店は、所属保険会社のために収受した保険料等につき、様式第二に定める収支明細表を備え置かなければならない。」として収支明細表の制度を定めているが、これは、損害保険代理店における保険料収受の一切を明らかにする帳簿であり、右指定された様式により、損害保険代理店は、保険契約者から保険料を領収した都度、保険種目、保険始期、契約者名、保険料を明確に記入しなければならないとされている。

また、≪証拠≫によると、社団法人損害保険協会の通知で、損害保険代理店別途預貯金専用口座を設定した場合、その通帳記号及び番号等を所属保険会社へ通知しなければならないとされていること、別途預貯金先が破産したような場合、損害保険代理店としてその保管責任を十分に果していれば、その損害は保険会社の負担となる、これは、収入保険料は保険会社の所有物であり、損害保険代理店はこれを保管する立場にあると考えられていること、別途預金口座(専用口座)の名義は、file_2.jpg専属代理店または乗合代理店で保険会社ごとに別口座とする場合は、所属保険会社名を店主名の肩に記載し、file_3.jpg乗合代理店で一括預貯金とする場合は、「損害保険代理店勘定」と店主名の肩に記載することが認められる。

四  前記争いのない事実に、≪証拠≫を総合すると以下の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

1  原告と東京菱和が昭和四〇年一〇月一日締結した火災、自動車、傷害、新種の損害保険代理店契約によると、東京菱和は、原告から委託された保険種類につき原告を代理して、保険契約の締結保険料の領収等の業務を行うこと、領収した保険料の保管については原告に納付するまでは、募取法の定めるところに従い、これを自己の財産と明確に区分して保管し、他に流用してはならないこととされていること

2  原告は、東京菱和との間で、昭和四四年九月三〇日、自動車損害賠償責任保険代理店委託契約を締結したが、同保険については、募取法一二条の規定の適用はなく、いかなる形式によつても自ら保管してはならない旨合意していること

3  東京菱和は、一項記載の昭和四〇年一〇月一日以降募取法の定めるところにより、収支明細表等を備え、自動車任意保険、傷害火災保険につき、原告の締約代理をなしてきたこと

4  東京菱和は、昭和四三年二月二〇日、前記社団法人損害保険協会通知に従い、原告から大東京火災、興亜火災との保険料一括保管に関する同意を得、昭和五七年四月一七日、原告に対し、(1)預貯金先「三菱銀行渋谷支店」、預貯金の種類「普通」、通帳記号及び番号「五六一四六九五」、通帳名義人「東京海上火災保険株式会社代理店(自動車口)東京菱和自動車株式会社代表取締役原三郎」の口座変更通知、同日、(2)預貯金先、種類は同じであるが、通帳記号及び番号「五六一四七一三」、通帳名義人「損害保険代理店勘定(火災・新種口)東京菱和自動車株式会社代表取締役原三郎」、一括保管の会社名・原告、興亜火災、大東京火災の口座変更通知をなし、昭和五八年五月二三日、原告に対し、(3)預貯金先「百十四銀行青山支店」、預貯金の種類「定期」、通帳記号及び番号「五八―七」、通帳名義人「東京海上火災保険株式会社代理店(自動車口)東京菱和株式会社代表取締役原三郎」の口座追加通知、同日、(4)預貯金先種類は同じであるが、通帳記号及び番号「五八―一〇」、通帳名義人「損害保険代理店勘定(火災・新種口)東京菱和自動車株式会社代表取締役原三郎」、一括保管の会社名・大東京火災、興亜火災の口座変更通知をそれぞれなしていること

5  東京菱和の破産宣告時点での原告に関する自動車任意保険の収支明細表の預貯金明細の残高の内訳は、定期預金が五一〇万円、普通貯金が一六一四万三一七六円であり、前記の4(3)、(1)の口座にそれぞれ預けられており、右定期預金は別紙預金目録二ないし五の預金を合計したものであり、普通預金は同目録一であること

6  東京菱和の破産宣告時点での原告に関する自動車任意保険以外の傷害、火災保険等の収支明細表の預貯金残高は一九四万九二一〇円であること、同保険の保険料は原告、興亜火災、大東京火災と一括して預金されることになつていたが、東京菱和の破産宣告時点での保険料一括総合表の原告、興亜火災、大東京火災の預貯金残高合計は三一一万四三〇五円であり、このうち原告分は一九四万九二一〇円であること、右三社の合計額預金内訳は、預貯金残高内訳表によると普通預金が二〇一万四三〇五円、定期預金が一一〇万円であり、定期預金は、前記4(4)、普通預金は前記4(2)の口座にかかるもので、定期預金は別紙預金目録七ないし九(原告の持分を除く。)の預金を合計したものであり、普通預金は同目録六(原告の持分を除く。)であること、右三社の預貯金残高合計三一一万四三〇五円と原告分一九四万九二一〇円との割合は〇・六二五八八九三であり、同目録六ないし九の各預金金額にこの〇・六二五八八九三を乗じると同目録六ないし九の原告の持分に相当する金額となること7 右5、6で述べた定期預金については、昭和五八年から認められたものであるが、これは従前は保険料の一月ごとの精算をなすにつき流動性の低い定期預金では支障が生ずるおそれがあつたためであるが、保険料を多く扱う代理店の場合、専用口座の中に常時多額の滞留資金が生じ、利息が定期と普通預金では異ることを考慮し、専用口座の中に常時多額の保険料が滞留している代理店につきその流動性を損わないことを前提に一定の条件の下で認められたもので、専用口座としての性格は普通預金と異るものではないこと

8  東京菱和が本件預金口座に金員を預け入れるについては、東京菱和本社管理課で東京菱和の所有にかかる当座預金から預け入れているが、右預け入れは、東京菱和本社保険課からの振込依頼に基づくものであり、この保険課の振込依頼は収支明細表に基づくものであること、収支明細表の記載は、東京菱和の営業所から保険課に送付された保険申込書に基づくものであること、収支明細表に記帳後保険課では、原告名義の保険料領収書を作成し、営業所のセールスマンを通じて保険契約者に交付していること、保険契約者から営業所のセールスマンが受領した保険料は、各営業所の当座預金に入金され、東京菱和本社管理課が随時同社の一般口座に吸い上げていたこと

9  東京菱和の破産宣告時において本件預金口座に振替えられたが、保険契約者から保険料を東京菱和が受領していない場合が存するが、東京菱和では、顧客に対するサービスとして、顧客の支払うべき保険料を立替払をすることがあつたこと、専用口座に預入したが、売掛金残高に残つているものについて、東京菱和は自らの債権が回収不能ということで損金処理をしていること、東京菱和は専用口座から月に一度原告に対し保険料を送金していたが、原告は専用口座に金員が入金され、保険領収書が発行されていれば、原告に送金前に保険事故が起つても保険金を支払つていること

10  原告を含め保険会社、社団法人損害保険協会は、代理店に対し、保険料を確保し、保険事業の健全な発展及び保険契約者を保護するためには、保険契約締結と同時に保険料を収受しなければならず、その手段として専用口座が存することを講習会等で教育しており、破産宣告当時東京菱和の保険課長であつた関輝夫は、本件預金の原資は保険料であり、原告に帰属するものとの認識のもとに本件預金への預け入れ行為を行つていること

以上の事実を認定でき、右認定事実からすると東京菱和は原告との間に昭和四〇年一〇月一日に成立した自動車(任意)、傷害、火災保険等の損害保険代理店契約に基づき、募取法に従い、東京菱和の財産とは明確に区分された保険料保管専用口座で保険料を保管していたものであり、募取法によると前記三のとおり損害保険代理店は少数の例外的な場合を除き、これを使用することはできないこと、右口座に入金する金員は保険契約と対応し、保険料として入金されていたものであり、東京菱和の保険担当者の認識も同様であること、右専用口座の名義も原告の代理人として開設することを明らかにしていると解され、これによると原告は、本件預金の債権者であるというべきである。

ところで、≪証拠≫、弁論の全趣旨によると、本件預金の通帳は東京菱和が保管し、届出印は東京菱和の代表者印であることが認められるが、前記のとおり東京菱和が専用口座である本件口座から預金を引き出しうるのは募取法施行規則六条の定める五つの場合に限定されており、それ以外は預金を引き出すと募取法二四条二号により刑罰に処せられることからすると、この預金の通帳、印鑑の点をとらえて東京菱和が預金者と認定することは相当でない。

さらに、被告は、本件預金の利息は東京菱和が取得し、本件預金には東京菱和に帰属すべき相当額の手数料が含まれているから、本件預金の支配性は東京菱和にある旨主張する。

募取法施行規則六条四号によると代理店は預金の利息を収取する権利を有し、≪証拠≫によれば、専用口座の利息は東京菱和が取得していたこと、原告と東京菱和の損害保険代理店委託契約によると東京菱和は、原告のために領収した保険料から代理店手数料を控除した額を原告に納付することとなつており、原告と東京菱和との間で右約定により一月ごとに保険料から代理店手数料を控除した額を原告に送金してきたことが認められる。

しかしながら、≪証拠≫によると、利息の額は一般的には僅かであり、極めて多数の代理店についてその回収を行なうことは、煩瑣な手続きを要し、また、乗合代理店が「損害保険代理店勘定」に一括預入する場合については、各保険会社に帰属すべき利息の額の計算が複雑になることが認められ、利息収取権は、保険会社と代理店の委任契約上、いわば口座管理の対価として認められていると解するのが相当であり、この利息取得権から代理店に預金が帰属すると解することはできない。

また、現実に東京菱和が送付する額が代理店手数料を控除した額であつても、このことは、専用口座に入金される金員が保険料であることを否定するものではなく、≪証拠≫によると、事務の簡素化のために、本来保険料相当額を原告に送金したのち請求しうる手数料を送金の際に代理店に手数料相当額を専用口座から引き出させ、これを代理店に取得させているにすぎないと認められる。

従つて、利息及び手数料を根拠に本件預金の支配性が東京菱和にあると認めることはできない。

五  以上説示したところによると、原告は本件預金の預金者であると認められ、原告の本訴請求は理由があるので認容する

(裁判官 菅原崇)

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